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文六つうしん シリーズ別

医療事故(3件)

2008年4月19日

日本の医療が危ない (12)

医療事故

§ 今、医療界で何が問題となっているのか

 4月12日、地域医療研究会の勉強会があり、上京した。
 メインのテーマは、厚労省の 『 診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する検討委員会試案 』 ( 第2次試案 ) についてであったが、4月3日に公表された第3次試案ではその名称が変更されていた。新名称は 『 医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案 ― 第3次試案 ― 』 となっていた。
 講師は、大阪八尾市の医真会八尾病院理事長の森功先生。森先生は1995年に医療事故調査会を立ち上げ、多くの医療事故の原因分析とその防止策について研究されて来られた先生である。森先生は、今の厚労省第3次試案では、懸案としている医療関連死に関する原因究明と再発防止に対する実効性はない。医療被害者の補償まで踏み込んだ制度でない限り、試案のような “ 調査委員会 ” を設けても駄目であると断言された。一番大きな点は、死因究明と再発防止を唱えながら、患者の視点が完全に抜け落ちていること、第2の問題は刑事訴追をして処罰をすることを明記している点にあると。フランスをはじめ先進諸国では、医師には刑事罰を適用しないことを明言していると。
 また、森先生は、医療事故への対応は以下の6つの段階すべてを踏める制度にしなければ意味がないと指摘された。

① 検出 ・ 影響緩和
② 共感的謝罪
③ 原因分析 ・ 評価
④ 責任謝罪
⑤ 患者救済
⑥ 予防法の確立

 現在の厚労省試案は、③ のみを中心にしており、その上に処罰を前提としているので、認めるべきではないと。
 松本文六は、行政処分や監査機関への通報は全く意味がないとすでに指摘している。改めて、2月21日・22日の 「 文六つうしん 」 を参照下さい。
 医療事故調査の名を借りた、医師の選別 ・ 処罰を行うことを目的としているとしか考えられない。そもそも、この検討委員会の委員に刑法学が専門である首都大学法科大学院教授前田雅英氏を据えたこと自身、厚労省の意図はみえみえであった。
 医療崩壊のキッカケの主要な要因は、医療裁判、刑事訴追や患者さんとの軋轢 ( あつれき ) に対する恐怖感からであるということを “ 検討委員会 ” の諸氏は理解していないのではなかろうか。現に中小病院や二次救急医療機関では当直拒否や当直していても自分の専門以外の診療を忌避する現象が各地で起こっている。そのために、全国の主要な救命救急センターに患者さんが押しかけ、本来の業務に支障を来たしているのが現実である。そこに押しかける患者さんの多くは入院不要な一次救急の病状の人が9割を占めると言う。
 そのような環境の中で、医師達は疲れ切ってしまいます。そのあげくそのセンターから立ち去って行くという情況が眼に見えてくる。このような空気が読めないと、医療崩壊は益々進行してゆく。医師が行政処分や刑事訴追(第3次試案でも悪質な場合には捜査機関に通報すると明記されている)におののくと、自己保身医療が跋扈 ( ばっこ ) する。これは一般的な現在の医師の心情である。行政処分や刑事訴追が想定されるのに自院の医療死亡事故を鷹揚 ( おうよう ) に届け出るような能天気な医療機関管理者などいるはずがない。
 現在の医師、とりわけ、若い医師は厳しい受験戦争を勝ち抜いてきた猛者 ( もさ ) である。能天気な者はとっくの昔に受験競争から脱落している。99.9%以上そうだと、松本文六には想える。
 医療事故死亡の原因究明と再発防止策に特化した、《 医療事故調査委員会 》、あるいは 《 医療安全推進委員会 》 とし、行政処分や刑事訴追はこの案から100%はずさなければ全くその存在意義はないと私、松本文六は考える。
 森先生曰く、《 第3次試案が法案として通れば、医療機関は万々歳でしょうね 》 と。

2008年2月22日

日本の医療が危ない! (3) 医療事故

医療事故

§今、医療界では何が問題となっているのか ② 
  ―医療事故調査委員会 ( 仮称 ) の在りようについて

  1. 医師法21条の届け出にしなければならないケースの基準をより鮮明にすべきである。
     
    福島県立大野病院の “ 事件 ” をきっかけに、医療界に大激震が走ったことを考えれば、1994年5月に公表された日本法医学会の 『 異常死ガイドライン 』 が適切妥当なものとは判断しがたい。
     法律の専門家でない臨床医が、医師法21条を読めば、《 犯罪の臭いがする 》 場合に届け出れば良いという考え方が一般的である。このガイドラインでは、大野病院 “ 事件 ” などの多発は防ぐことはできない。医療に大して詳しくない警察は、予期せぬ死亡例についても、その取り締りをしようとする犯罪捜査の感覚で対処することはあって然(しか)るべきことである。そのような点では、法医学会のガイドラインは不適切なものとして、医師法21条の運用に当たっては処断すべきであると考えます。
  2. 事故調査委員会の業務範囲は、死因究明と医療事故の発生に立った原因分析を行い、業務に精通し、もって日本の臨床医学の質の向上に資することを基本的任務とすべきである。
    (1)届け出を怠った場合とは何らかのペナルティーを科すという戦前の警察国家的発想であれば、現場は萎縮してしまい、患者さんのタライまわしが必然的に起こることが予測される。保身医療が横行し、本来の医師としての役割が変質し、委員会の目的が実現できなくなる。
    (2)民事裁判に証拠としての採用は避けられないと考えられるが、行政処分や刑事裁判に “ 活用 ”させるのは止めるべきである。これを恐れて、届け出の “ 公文書偽造 ” が頻発し、本来の委員会の目的が失われることとなる。
  3. 厚生労働省に委員会を設置すべきではない。
     少なくとも内閣府の下に置き、公正取引委員会のような各省府から独立した予算と権限をもった委員会とすべきである。
  4. 委員会には遺族の立場を代表する者は入れるべきではない。
     遺族を委員会の一員にすることが、本来の医療関連死の原因究明や不幸な事例再発防止に寄与するとは考えにくい。むしろ、市民の代表(患者団体や被害者団体、あるいは医療に関するNPO法人など)の方が冷静な判断ができると考えます。

                                  以上

2008年2月21日

日本の医療が危ない! (3) 医療事故

医療事故

§今、医療界では何が問題となっているのか ① 
 ―『診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案』

 現在、医療に関する新聞やテレビの報道は一日も欠かさない程よくみられます。
 その中で、ここ数年、医療訴訟が急激に多くなってきています。そのために、医師一人ひとりが、いつ裁判に訴えられるかもしれないと、ごく一部の医師を除いて、戦々恐々として “ 保身診療 ” に走っている傾向があります。

《 こんな重傷や重症の患者さんを診 ( み ) ていて、万が一トラブって、訴訟に巻き込まれたらたまらない!》

ということで、時には診療を拒否する傾向が出てきています。
 医師も人間ですから、間違いを犯すことはあります。ところが、最近のマスメディアの報道を注意深くみていますと、すべての地域で最高の医療が受けられるのが当たり前だという論調が目立ちます。そして、健康保険で受けられない治療が沢山ある、厚生労働省は早く認可すべきであるという形のニュースがしばしば流れます。このような中で医療不信が次第に強くなり、モンスターペイシェント ( Monster Patient 怪物のような患者 ) が出現しています。
 このような医師と医療機関と患者さんの信頼関係をこれ以上こわすべきではない。《 診療行為には、一定の危険を伴なうものであり、場合によっては、死亡等の不幸な帰結 ( 結果 ) につながる場合があり得る。》 このように 《 不幸にも診療行為に関連した予期しない死亡が発生した場合に、遺族の願いは、反省、謝罪、責任の追及、再発防止であると言われる。》
 そこで、厚生労働省は、医療事故調査委員会なるものを設置して、死因の調査や臨床経過の評価・分析等をして、同じような事故が再び起こらないようにしたい。と 『 診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案 』 ( 以下、『 試案とします 』 )を、昨年10月に発表しました。この内容には随分問題があります。
 この問題について、以下数回にわたって述べさせていただきます。

 そもそもこのような事態が何故起こったのか? といいますと、2004年12月17日に、福島県立大野病院で帝王切開中の出血により患者さんが死亡しました。その当事者であるK産科医が、1年2ヵ月も経った2006年2月18日、業務上過失致死罪及び異常死の届出義務違反 ( 医師法違反 ) の疑いで逮捕されました。
 このケースは、産婦人科医が一生に一回遭遇するかしないかという程、稀な症例で、救命することの可能性が低い事例でした。そのため、産婦人科医の中だけでなく医療界で大問題となりました。
 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会から問題ありとの声明が相次ぎ、日本母性保護産婦人科医会は、以下のような声明で、この事態を全面的に批判しました。
  《 このように稀で、救命する可能性の低い事例で医師を逮捕するのは産科医療、殊に地域における産科医療を崩壊させかねない。》
 現に、この事件を契機に全国あちこちで昼夜を問わず、地域医療に貢献している医師たちは 《 こんなことではやっちゃおれん !! 》 とその診療意欲は著しく低下し、産科領域から撤退する産婦人科医が続出しました。
 ちなみに、大分県でもそれが現実となってきています。お産を扱う医者が極端に少なくなってきています。2004年12月には、中津・国東市および佐伯市には、それぞれ10名、6名の産科医がいましたが、2008年1月には、何と、それぞれたった1名となってしまいました。
 このように大野病院の “ 事件 ” 以来、全国から産科領域から手をひく医師が一挙に増えました。この “ 事件 ” 以外に、医療の領域にも競争原理=市場経済主義が次々に導入されることにより、勤務医は疲弊し、全国的に病院閉鎖や診療科の縮小・閉鎖が起こり、大問題となっています。
 このような中で、国もどうかしなければならないということで、冒頭の 『 試案 』 を出してきたのです。

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