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2008年11月 1日
再び後期高齢者医療制度について
後期高齢者医療制度
- 根本的欠陥のある制度を推奨することはできない -
後期高齢者医療制度に対する世論の厳しい評価に対し、国は次々と見直し案を出しています。ここに改めて、私の“廃止すべき”の論点を以下に明らかにしたいと思います。
Ⅰ“廃止すべき”という私どもの主張の論拠
廃止してどうするのかという質問に対しては、《理想的には各種健康保険の一元化・一本化すべきである。》と答えます。しかしながら、そこまで急ぎ到達できないのは明らかですので、旧老人保健制度に復すべしと答えたい。これが、私どもの“対案”です。
そして、廃止すべきと主張する観点・問題点は以下のように考えています。
1. 後期高齢者医療制度は医療費抑制が最大の目的とされている。
老人保健法第1条には《国民の老後における健康の保障と適切な医療の確保を図るため、疾病の予防、治療、機能訓練等の保健事業を総合的に実施し、もって国民保健の向上及び老人福祉の増進を図ることを目的とする》と規定されています。
これに対し、この後期高齢者医療制度の根拠法となっている『高齢者の医療の確保に関する法律』の第1条には、《この法律は、国民の高齢期における適切な医療の確保を図るため、医療費の適正化を推進するための計画の作成及び保険者による健康審査等の実施に関する措置を講ずる》と、医療費を抑制することを最大の目的とすることを宣言しています。
そして、この中には4つの医療費抑制策が明記されています。
(1)広域連合が特定健診、保健指導等の目標を達成できなかった場合には、2013年度から支援金の最大10%加算のペナルティを課す。
(2)医療費適正化計画を達成できなかった都道府県は2013年度以後、診療報酬点数の特例的引き下げの実施を課す。
(3)70~74才の自己負担割合を2割に引上げる(現在凍結されている)。
(4)老人保健法では高齢者には適用されていなかった資格証明書の交付が新に導入される。
又、この制度の保険料は、従来より高くなる人が低所得者程多い。
しかも、保険料を1年間払えなければ資格証明書を発行し、1年半滞納が続けば、資格証明書さえ剥奪されます。このことは、無保険者を大量に発生させることとなります。
これらは、いずれも途轍もない市場経済原理の導入です。
2. 国民皆保険制度の理念に反する仕組みである
75才以上及び(一部都道府県に限られるが)65才以上の障害者を強制的に被保険者とすることは、ハイリスクグループを一括りにした制度であり、リスクを分散するという社会保険の理念に反し、従って財政破綻は眼に見えています。
〈国際的に見ても、全国民又は大多数の国民を対象にした公的医療保障制度を有する国で、高齢者を別建てにした制度を有している国は日本以外にないことは政府・厚生労働省も認めている〉といいます。
3. 医療現場と患者間に混乱を来すことがありうる。
後期高齢者診療料を請求する診療所と請求しない診療所で、患者さんの疾病が同じであっても料金が異なりますし、75才を境にして同じ診療所にかかっている患者さんの間で受けられる医療に歴然とした格差が生じることがあります。
4. 家族の絆を断ち切る仕組が内包されている。
これまで子供の扶養家族として自ら保険料の支払い義務のなかった人たちが、別の保険(後期高齢者医療制度)に強制加入させられ保険料を新に払わされることとなります。
又、75才以上と75才未満の夫婦2人世帯では、夫婦が別々の保険に加入させられることも起ります。夫は後期高齢者医療保険に個人として加入させられ、妻は国民健康保険に加入させられます。しかも、妻のこの時の国民保険料は夫との所得合算で計算されますので、世帯の保険料は必然的に上ります。
“何故こんなことになるのか?”心理的には外力で親子や夫婦の間の一体感の絆を断ち切られるのかという想いにかりたてられるのは理の当然ですし、不条理な施策に怒りや憤りを覚えるのは自然な感情です。このような仕組は、家族やお年寄りを大切にしてきた、日本の文化を破壊するような怖さを持っています。
5. 年金よりの強制天引き制度について
本人同意なしの強制で、憲法違反の疑いさえあります。法の根幹をなす日本国憲法を無視する蛮行と言わざるを得ません。
6. 入院した場合、入院費が2倍となる
月の途中で75才を迎えますと、これまで1ヵ月の高額療養費44,400円を払えば良かったのですが、この制度の下では場合によっては入院費として2倍の88,800円を払わなければならなくなります。
前半は国民健康保険制度の、そして後半は後期高齢者医療制度の対象者であるからといいます。この点は来年1月より改正される由です。
私どもが最も危惧してきました点は、この中でもとりわけ1と2です。これらは、国民皆保険制度を真向から解体させる仕組みが組み込まれているとみなさざるを得ません。
とりわけ、(4)の資格証明書の交付という点です。2800万を越す65才以上の高齢者で、国民健康保険料と介護保険料を払えない人が1割以上いるといわれています。としますと、75才以上の高齢者では恐らく300万人を超える人が無保険者に陥ると見込まれます。
この点を誰から指摘されたのか、それとも重要人物が教唆したのか、厚生労働省は、7月11日に次のようなことを表明しています。曰く、《 年金収入が夫婦世帯で年238万円以下、単身で年203万円以下の加入者は資格証明書交付の対象外とする 》と。
又、《 資格証明書は、『相当な収入』があるのに納めない悪質な者に限って適用する 》とも表明しています。後期高齢者医療制度に加入させられる1300数十万人の4割強、約570万人が、該当するといいます。
もし、全国的に批判の声が上らなかったら、2009年10月には、無保険者が対象者の約4割に達するかもしれませんでした。この点に関して、私どもが、批判してきた最大の問題点が、総選挙目当てか、完全にはずされた意味では、私どもの“廃止せよ!”という指摘は、的を射ていたことをも示しています。
3~6についての手直しも又、更になされて来ています。この制度が施行後わずか3~4ヵ月で、法の根幹部を変えなければならないということは、この制度が強行採決されたとはいえ、法の体をなしていなかったことをも示しています。
そもそも、この後期高齢者医療制度は、弱者の存在を全く認めていない制度でした。《 惻隠の心無きは人に非ざる也 》と古の人は言われましたが、現在の法、それをつくる官僚・政治家はそうなのかもしれません。前の老人保健制度には、それでも、この心はありました。
Ⅱ 国は見直しに次ぐ見直し
この後期高齢者医療制度は、全国の高齢者からの天を突く怒りと憤りの声の中で、舛添厚生労働大臣は、9月19日、次期国会でこの制度を《 根本的に見直す 》との考えを明らかにしました。
その見直しの視点は、
① 75才以上という年令で分けない
② 保険料の天引きを強制しない
③ 負担について世代間の反目を助長する仕組にしない
というものでした。
この発言には、麻生太郎新総理大臣も全く同じ発言をしています。しかし、再任された舛添厚生労働大臣は、更にこうも言っています。《 最低1年議論し、それまでは現行制度を維持する。 “廃止”とは一言も言ってはいない。 》と。
更に、舛添厚生労働大臣は、10月2日、後期高齢者医療制度を見直し、《都道府県単位に再編した国民健康保険制度と後期高齢者医療制度を一体的に運営する》という私案を公表しました。
その骨子は、
(1)75才と区切らずに、65才以上の高齢者をひっくるめた制度とする。
(2)それにより国保財政の安定化を図る
(3)2006年成立の改正健康保険法の附則で規定している《施行後5年をめどに行う検討》を前倒しして、今後1年をめどに必要な見直しを検討する(10月7日政府答弁書)。
これを図示しますと図のようになります。
Ⅲ 私たちが考え検討すべきは何か?
多くのお年寄りの怒りと憤りが天を突き、この後期高齢者医療制度の“根本的見直し”が、国民皆保険制度を解体させないことを願いたいものです。
私たちは、常に、医療者として国の施策に幻想を抱くのではなく、憲法25条第1項の生存権を守るために、国の医療政策を批判し、同条第2項に示されていることを実行する様国に対して強く要求してゆくべきだと考えます。
10年間継続して検討して来たものであり、今更、この後期高齢者医療制度を廃止せよというのであれば、対案を示せという意見・批判が私の意見書に寄せられてきました。
長期間に亘って検討されて来た制度が、この程度のものであるとすれば、制度を高く評価されて来られた方々は、何のため誰のために、この制度を認め推奨されて来られたのか、更には、無保険者を対象者全体の4割も産み出しかねない制度の欠陥を何故見抜けなかったのかを明らかにすべきでしょう。
私たち医療者が考え行動しなければならないことは、そして私たちが新しく提起された医療に関する法を批判する場合には、それが何年間議論されてきたのかどうかではなく、その適用を受ける国民=患者さんにとってどういう負担と負荷が及ぼされ、医療が改善されてゆくのか、それとも悪い方向に行こうとしているのかという点を深く分析検討し、批判してゆくという視点に立ってなされるべきでしょう。
法の根本となる日本国憲法には次のように記されています。

2008.10.12
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