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文六つうしん

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2008年5月10日

人は旅をして気をもらう (4) 鳴門

§ 壮大なる偽物絵画を観る! ③ 大塚国際美術館

 “ 大塚国際美術館 ” の展示方法は3種類。 ① 環境展示 ② 系統展示 ③ テーマ展示と分けられている。
 ①は、古代遺跡や教会などの壁画などを、その空間を丸ごと再現している。②は、時代の変遷に沿って、美術史的に理解されるべく配置されている。古代・中世・ルネサンス・バロック・近代・現代の順に。③は、人間の生活に沿った、また、美術談議で話題となるような形での展示がなされている。空間表現・だまし絵・時・生と死・食卓の情景・家族・運命の女・レンブラントの自画像という具合に。
 印象に残ったものを順次述べたい。
 ①の環境空間まるごとには、この旅の記憶の冒頭に述べたシスティーナ礼拝堂の天井画と壁画の他、12ヵ所の壁画と建物ごと移設した形となっている。
 ミケランジェロのフレスコ画、『 天地創造 』 と 『 最後の審判 』 の展示は、吸い込まれてゆくような絵画空間で、これが地下3階の正面入口の真前に置かれている。美術の専門家の誰もが考えそうな極く当たり前の演出であるとも言えるが、この演出は入館第一歩で入館者の度肝を抜かすことを想定した心にくい演出とも言える。そのすごさは直接自らの眼で観た者しか理解できないと思われる。本物はもっと壮観なのかもしれない。同僚の医師が、イタリア旅行の折、2時間列を作ってやっとシスティーナ礼拝堂に入り、このフレスコ画を見たとたん、2時間立ちっぱなしに待った疲れが一挙に吹き飛んだと語っていた。まさにそうだろうと頷 ( うなず ) ける。日本のみでなく、世界のどこにもこれだけ壮大な天井画と壁画はないであろう。江戸時代の日本の城の中の襖絵を全部あわせても、これ程のスケールのものにはなるまい。天井画の 『 天地創造 』 は 823 ㎡、壁画 『 最後の審判 』 は 195 ㎡ である。
 最近、加藤清正公の熊本城の “ 客間 ” が、復刻再現されたというが、どれ位のスケールのものか、今年中に一度観にゆきたい。
 さて、システィーナ礼拝堂は別格として、松本文六にとって強烈な印象を残したのは、鮮やかな色彩を施した2つのフレスコ画である。
 まずは、スクロヴェーニ礼拝堂の天井のフレスコ画の澄んだ濃紺の青である。そのドーム状の深い青の空に*がきれいに等間隔に配され、満月とおぼしき円形が大小10組規則正しく描かれている。空間を2つに分けて一方の大円形にはキリストが、他方の大円形の中には聖母子像が描かれ、小さな4つずつの小円形には8人の使徒(?)が描かれている。当初、その円形には何が描かれているのか、この深い青色に吸い込まれてしまって全く気がつかなかった。
 ピカソの青の時代や、ゴッホの一部の絵に使われている青は、もしかしたら、このスクロヴェー二の青を念頭に置いていたのかもしれない。
 この深い深い青は、北イタリア、パドヴァ市にあるスクロヴェーニ礼拝堂の天井画である。 “ 美術巡礼者 ”  にとっては一つの “ 聖地 ” だという。この壁画には 『 聖母マリアの生涯 』 12場面、『 キリストの生涯 』 25場面が描かれている。作者はかのジョットである。ミケランジェロの大胆なたくましい人間像と、生の息吹の感じる画面に比べると、全く異質で、ジョットのこの青の部屋の壁画は、簡素でひきしまった構図で幾何学的模様が、静謐 ( せいひつ ) な空間を生み出している。
 ジョットは、《 中世末期の死せる絵画の復活者 》 と称され、《 人間的共感にみちた生気ある場面を創造 》 して、ルネサンス絵画の礎を築いた画家と言われているという。見事である。一日中この空間にいてもいいような空間である。
 しかし、このスクロヴェー二礼拝堂を建立したエンリコ ・ スクロヴェー二の父、レジナルドは高利貸しで財をなした人物で、同時代のダンテの 『 神曲 』 にあさましい姿で登場するらしい。エンリコは、父の罪の消滅を願ってこのお墓を建てたと言われている。この深い深い静謐 ( せいひつ ) には、エンリコの静かな深い想いが込められているのかもしれない。

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