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2008年5月 6日
生き場所づくり (2)
エッセイ 1
§ 二つのいのちを扱う危険性 ③
第2の問題 《 “ 二つの生命体を同時に扱う医療 ” は医療とよべるのか? 》 を考えてみましょう。治療医学を主体とする医療は、ひとの一つの生命を対象とし、そのひとが直面している生命の危機から如何に脱出させ、その人本来の生命の維持可能状態にいかに復させるのかということをその使命としています。対象は、必ず一つの生命体です。 “ 脳死 ” を前提とした臓器移植は、ドナーとレシピエント (注) という二つの生命体に同時に関わる “ 医療行為 ” を必然的に要求してきます。このような二つの生命体に同時に関わるという “ 医学 ” は、人類が有史以来初めて直面している新たな医学であり、国民総ぐるみで討議されなければならない重い課題です。しかし、この “ 脳死 ” を前提とする医療の本質は、 < 他人の死を期待する医療 > であり、他人の不幸せを願う医療でしかありません。これは医療ではなく、成熟社会という観点からも許されない医療だと私は思います。ヒトラーや天皇の軍隊が越えてはならない河を渡り始めたとき、人類の悲劇が始まったのです。
このことは第3の 《 臓器売買は許されるのか? 》 に関わります。いわゆる西欧諸国は、この歴史的教訓を無視して “ 脳死 ” を前提とした臓器移植を、 「 近代医学の勝利 」 として次々に手を染めてきています。その中で、深刻な臓器不足が発生し、アメリカでは、臓器売買が公然の秘密となり、他方で、酒気帯運転の緩和や、スピード制限の廃止などの、まさに時代逆行の言辞が罷 ( まか ) り通っています。また、中南米各国では、アメリカやヨーロッパでの臓器移植や養子縁組を目的とした多数の幼児誘拐が発生しています。中米ホンジュラスのジェハス大統領は、たまりかねて、1993年4月16日、臓器移植を目的に幼児を誘拐している犯罪組織の本格捜査を司法機関に命じたといいます。ホンジュラスでは、この半年間に600人の幼児が行方不明になっています。まさにおぞましい 「 臓器マフィア 」 の出現です。
二つの生命体を同時に扱う医療について、歴史的悲劇を二度と繰り返さないために、そして人権が本当に尊重される社会へ向けて、私どもはもっと深刻に考え直すべきではないでしょうか?
注 : レシピエント (受領者の意) 他の人から提供された臓器・組織あるいは血液を移植ないし輸血してもらう人 ⇔ ドナー
*初出 月刊 総合ケア Vol. 3 No. 12 1993.12
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