| 2007年2月10日 日本の医療はこのままでいいのでしょうか? ~地域の医療と地域が崩壊させられようとしています~ 2005年6月21日、小泉政権は経済財政諮問会議の答申を受け、いわゆる『骨太方針2005』を閣議決定し、2005年12月1日、『医療制度改革大綱』を策定しました。 この『骨太方針2005』と『大綱』に沿って、2005年10月より、介護施設での食費・居住費の自己負担化が決定され、2006年4月には診療報酬・介護報酬の大幅引き下げが決定されました。前者は3.16%と1961年の国民皆保険制度創設以来の最大の大幅引き下げとなりました。又、介護報酬は、2005年10月改定と併せますと合計4.7%もの大幅引き下げとなりました。これでは、3%の経常利益があれば良い方であった病院が、総倒れになる可能性さえあると云われています。これに追い撃ちをかけるように、2006年6月の健康保険法・医療法等の一部改正で2012年3月末までに療養病床合計38万床を医療療養病床15万床のみとし、残りの23万床は、介護老人保健施設あるいは居住系サービスに転換させられることとなりました。 なかでも4月の診療報酬改定で7:1看護が導入され、東大・京大病院などの公的大病院が大掛かりな新卒看護師募集をかけたため、新卒看護師が大都市に集中させられ、地方の中小民間病院は安い入院基本料しかとれなくなってきています。東大や京大病院が大攻勢をかけたのは大学の独立行政法人化に伴って経営的生き残りをかけたからです。3.16%の大幅切り下げでも7:1を取得すれば何とかなるからです。それに伴って中小民間病院からの看護師の引き抜きがはじまっています。これが、日赤や済生会や厚生連などの公的大病院も7:1看護基準を取得すべく中小病院からの看護師の引き抜き活動を始めています。引き抜かれた地方の中小病院は、公募により結果的には同規模の中小病院や診療所あるいは介護関連施設などから、看護師・准看護師を確保せざるを得なくなりました。医療界のあらゆる分野でなりふりか構わぬ看護師・准看護師の獲得競争が展開されてきています。地方の中小病院や有床診療所は、そのあおりを食って、安い入院基本料に甘んぜざるを得ず、ひいては経営危機に陥らざるを得ません。因みに、7:1看護の入院基本料は15,550円/日/人で、10:1は12,690円、13:1は10,920円、15:1は9,540円、15:1未満(この基準以下の病院の入院料は特別入院基本料と呼ばれています)は5,750円です。 地域に根ざした中小民間病院は、頑張って10:1でしょう。それでも経営は収支ギリギリの状況です。因みに、大分県146病院のうち7:1を取得しているのはわずか12病院で、10:1が43、13:1が29、15:1が60、15:1未満が2医療機関です。これでは2006年度の大分県内の病院の7割(もしかしたら8割)近くは赤字決算かと推測せざるを得ません。当院は7:1看護基準も取得しましたが、他の診療報酬の切り下げに伴ない、2006年度収支は辛うじてプラス100万円台です。 7:1看護基準は病院全体が対象です。これが病棟単位であったら、これほどの混乱は起きなかったと思われます。そこで、あちこちで、この4月から病棟単位に変更すべきだと意見が出されていましたが、厚労省の審議会に影響力のある大病院のお偉方は、まず調査をしましょうと、この大混乱を1年先延ばしにしてしまいました。大病院とりわけ公的大病院は、黙っていても看護師確保が比較的容易なので、中小病院の痛みを知ろうともしません。リハビリテーションの日数制限は患者さんに直に影響したために政治問題化し、この4月に、日数制限を緩和しました。 いずれにせよ、今回の診療報酬改定は、中小病院を直撃し、いくつかの病院はそれこそ閉院せざるを得ない情況に追い込まれることが見込まれます。とりわけ、北海道の国公立の145病院のうち、43病院(29.7%を占める)は、15:1看護基準にも達しないため、特別入院基本料に甘んじざるを得ません。そればかりか、平成の市町村合併のあおりを受け、いくつかの病院は北海道の地から消え去ることになるのではないでしょうか? 更に、大学医局による小児科医や産婦人科医の派遣先よりの引揚げのために、若者がふる里では生活できない、出産できない情況が生じて来ています。これらは、国の医療政策の貧困さがもたらしたもの以外の何物でもありません。このような事態が、今、全国至るところで次々に惹き起こされているのは、問題が指摘されつつも何の手も打たなかった、国に最大の責任があります。又、日本医師会あるいは病院団体及び医療経済学者にも責任があるという人も多くいます。しかし、そこを取り上げ詮索しても問題は解決しません。何故こうなったのかを考える必要があります。それは、私たち医師や医療従事者が診療に追われ、日本全体の医療状況を考える精神的余裕がなかった環境に置かれていたということではないでしょうか。他方で、余裕のある診療を求めることを避けなければいけないという負の聖職者意識がその背景にあったのかもしれません。 そういう中で、福島県の大野病院の産婦人科医師の不法逮捕と新卒後臨床研修制度による研修医の大都市集中化によって一挙に問題点が鮮明になったと考えられます。同時に、勤務医の疲弊問題が併せて浮き彫りにされ、一部の地域の病院閉鎖が問題となってきています。勤務医の疲弊と中小病院の経営破綻によって、地域は一体どうなるのでしょうか? 地域の医療が崩壊するばかりか、地域が崩壊しかねません! この医療分野への財政的しめつけは、政権が変らない限り2011年度まで続きます。真綿で首を絞めつけられるように医療機関は経営的に疲弊させられ、医療従事者の志気は低下し、離職率が増えると、その被害は広く患者さんや利用者にまで拡がってゆくことは間違いありません。この根源は医療費抑制政策そのものによります。このままでは、サッチャーの新自由主義による医療政策によって破綻させられた2000年前後のイギリスの医療情況に陥ってしまいかねません。私はこのような日本の情況を座して拱手傍観(きょうしゅぼうかん)することは許されないと思い、これを何としてでも阻止し、より良い医療を展開させなければなりません。 |