文六の主張 (論文・発言)
松本文六は医療問題を中心に、さまざまな場で発言し、論文を発表しています。その中のいくつかを紹介します

2006年10月17日
医療費の総枠規制がもたらす地域と医療の崩壊は誰がその責任をとる?

 
社会保障給付費についての小泉政権の『骨太方針2005』によって、この2006年4月より診療報酬改定では、1961年の国民皆保険制度始まって以来の3.16%という大幅切り下げが断行されました。さらに、6月の参議院本会議において健康保険法等の一部を改正する法律案、医療法等の一部を改正する法律案が一括して採択され、療養病床の見直し及び廃止が決まりました。それにより医療界は途轍もない情況に追い込まれています。極めて深刻な事態が起きています。



1. すでに廃院・閉院された病院はいくつもある

 この中で提示された医療療養病床及び介護療養病床の見直し全面廃止~2012年4月以後は、現在ある医療療養病床25万床のうち14万床を介護保険に移行させ、介護保険から医療療養病床への転換4万床と併せて15万床とする。即ち、現在の療養病床38万床を15万床とし、23万床は老健や他の居住系施設に転換させるという方針。~が通告され、高齢者医療を担ってきた病院群は、大変な衝撃を受けています。

 医療機関の中の療養病床は、廊下の巾や一人当りの生活空間の広さが介護保険の施設基準より狭いので、転換と言われても、その改造などに多額の費用が見込まれ、しかも、診療費の大幅切り下げの中でこれら病床の経営者は頭を抱え込んでいます。

 10月14日夜のNHK総合テレビ『日本のこれから~医療に安心できますか?~』の中でも
北海道の病院の閉院写真が写し出されていましたが、見る限り、まだ新築 or 改築(?)されて間もない様に見えましたが、…。
 政策立案者はその政策を実施後にどのような影響が出るのか、考えることさえしていなとしか思えません。



2. 診療報酬圧縮の下で、厚労省は民間中小病院をつぶすつもりか?

 診療報酬上、病院の入院基本料は看護師の数で決まります。看護師1人がそれぞれ患者さん1.4人、2人、2.5人、3人を担当できるかで1日の入院基本料は、15,550円、12,690円、10,920円、9,540円と違ってくる。これまでの看護基準の最高ランクは患者さん2人に対して1人の看護師の配置だったが、この4月より1.4:1看護が導入され、2:1看護よりも、1人1日当り2,860円と破格な報酬が払われることとなた。そのためにとてつもないことが医療界で起こっています。看護師の取り合いである。1.4:1看護を取得すれば病院は一挙に収益があがるということで、大学病院・大病院をはじめ、すべての病院がこぞって大懸りな看護師募集を始めています。

 因みに、東大病院の肩入れは民間の大病院どころではないすさまじさです。東大病院は、1.4:1看護を取得するため、来年の看護学校の新卒者300名(例年の3倍に当る)を確保するとして、何と看護部長をはじめとする50人が手分けして、全国の看護学校の約半数500校を行脚したといいます(日経06.9.17.)。知名度と相対的な給与・労働条件のいい大学病院や公的大病院は民間に比べ看護師が集まりやすい。そこにこの大行脚です。

 
青森県の県立病院では、来春看護学校を卒業する予定の者を両親と共にディズニーランドに招待し、来春1.4:1看護の取得を目指していると言われています!!

 民間の中小病院は、新卒の看護師を確保することはそれでなくとも困難ですが、この大病院の大募集の前には又もや悲哀を味あわされそうです。トヨタやキャノンに黙っても人が集まるといいます。ましてや、…。天心堂は医療機関としての品位を何としても保ちたいが、、…。

 問題は、この1.4:1看護が、病棟単位であれば病院内の患者さんの病態に沿って傾斜配分で看護師を配置できますが、今回の改定方針では病院全体でなければならないとしていますので、このような異常事態を来している訳です。民間の中小病院は質を落とすか閉院せよと言わんばかりの政策です。

 地方の第一線の中小病院は医療から手を引かざるを得なくなるのではないでしょうか。厚労省のお役人さんは日本の医療の行く末をどう考えているのでしょうか? 東京に住み厚労省の役人であれば、大きくしかも自己負担なしに良質な医療機関にかかれるから、地方の医療機関の崩壊なんかどうでもいいとでも言うのでしょうか?



. 診療報酬の仕組みの中で閉院を迫られている病院もある

 又、今回の改定によって、大幅赤字が見込まれるため閉院に追い込まれている病院もあります。それは看護師が患者3人に1人という基準(1日9,540円)を満たさない場合(特別入院基本料病院)には、これまでの最低ランクの1人1日7,830円であったものが今回の改定で5,750円とそれこそ一挙に3,790円もその入院基本料が下げられています。
北海道の145の大学病院・国公立病院のうち、何と43病院(29.7%)が、この最低ランクの看護基準の病院で、248の民間病院のうちそれに相当するのは33病院、13.3%といいます。公的病院には一般会計からの繰入れはありますが、平成の大市町村合併の中で、一部の病院は閉院されあるいは統合される病院も出てくるのは必然です。

 又、北海道の21の二次医療圏の中で、一般病床届出病院に対する特別入院基本料届出病院の割合が50%を超えている医療圏は、何と7圏もあり全体の3分の1を占めています。大赤字を抱えながら、医療をせざるを得ないといっても限度があり、いずれ閉院に追い込まれるでしょう。冬の雪で閉じ込められ、病院が遠くなってきますと、一人暮しや、老々世帯は凍死しなければならないのでしょうか? ここでは地域そのものが崩壊してゆきます。


 国の医療給付を圧縮せよという、上からの大号令で地域の医療は崩壊し、地域そのものが崩壊しそうになって来ています。一体、日本の医療の行く末はどうなるのでしょうか?
1980年代、サッチャー政権は社会保障費を大幅に圧縮しました。その結果、イギリスの医療は1990年代後半に至って崩壊に瀕してしまいました。そこで、ブレア政権は2001年に医療費総枠を現行の1.5倍にすると宣言し、医療改革に手をつけています。このような好先例があるのですが、日本はイギリスの二の舞を踏もうとしています。歴史から何も学ぼうとしない小泉政権~安倍政権の下では、医療も戦前のレベルまで持って行かれそうです。病める人々の健康を今一歩でも改善することを使命とする医療界は、シャキッとして日本の社会保障制度に対する国の歴史に逆行するようなこれらの挑戦に対し、断固として闘わなければなりません。私たちは、今こそその姿勢を鮮明としなければならないと強く思います。