文六の主張 (論文・発言)
松本文六は医療問題を中心に、さまざまな場で発言し、論文を発表しています。その中のいくつかを紹介します

2003年2月26日
第516回 国会衆議院予算委員会公聴会 公述人として発言 (議事録より)

 平成15年度の総予算についてということで意見を述べるということでございますが、私は、医療経営をやっておりますので、医療・福祉に関して述べさせていただきたいと思います。

 医療法人というのは大変多いんで、全国的には民間病院8300、その一部ですので、どこの馬の骨かということもあるかと思いますので、私の略歴を資料の2ページ目に掲載しています。
 病院は173床の急性期病院、それから老健90床、その他を経営しております。
 今回の厚生労働省の15年度予算の概要は、3枚目に概略を厚労省の資料から引用させていただいております。
そういう中で、私自身の考えは、1ページ目に書きました医療の原則3つ、どういう立場、どういう観点で、どういう方法でやるのかという観点での考え方を述べさせていただきたいと思います。

 厚生労働省の3ページ目の概要を見ますと、やはりこれは、もう随分昔からですが、官優位、大病院、大都市の病院、公的病院優位の医療を展開するという考え方がベースにある。
 もっと言えば、官尊民卑の思想に裏づけられた施策であろうというふうに考えます。
 現実的な問題として、もっと厚労省の考え方を整理しますと、4ページ目の上段に改革の基本的視点ということで3つ挙げられております。患者の視点の尊重、質が高く効率的な医療の提供、医療の基盤整備と書かれておりますが、この3つの点が現実的に医療現場の実態として本当にそれに見合うものであるかどうかということを中心に述べさせていただきたいと思います。

 この3つの点が十分満たされるためには何が必要かと申しますと、やはり医療機関の経営基盤がしっかりしていないとだめだということです。

 最近問題になっております、総合規制改革会議の株式会社等の医療機関経営の解禁ということが話題になっておりますが、これは、私は現在の医療・福祉の中で民活を活用せよという提言だと受け止めるべきじゃないかと思います。

 株式会社の参入があればどいうことになるかといいますと、まず、この3つの基本的視点の中の2番目,質が高く効率的な医療の提供、これは株式会社化できるだろうと思います。と申しますのは、有能な医者を全国から資金力に任せて引き抜いてくる。

 そして、利益を上げるためには、当然ながら人口の多い大都市じゃないと成り立たないわけです。そいうようなことで、株式会社化の中でやっていくとすれば、地方の医療基盤は完全に破壊される。それと同時に、患者の視点を尊重というのも満たされないだろう。

 そういう意味で、医療経営に株式会社化を導入するというのはこれは間違いだろう、はっきりそういうふうに思います。厚労省なり規制改革会議の論法はこの3つの点から見ても明らかに間違いだし、厚労省の反論もお粗末だなという感じがします。それはなぜかと申しますと、やはり官優位、大都市、大病院優位の政策が長年続いてきたせいだろうというふうに考えます。

 そういう中で、経営基盤をどういう形で保障するかという前に、現実的な問題として経営基盤がどういう形で侵されているのかという点について、資料を使いながらご説明申し上げたいと思います。

 経営基盤の整備をするためには、まず官民格差という点、それから二つ目には医療機関の消費税問題、三つ目には助成金の問題、四つ目には診療報酬の内容の問題、この四つに分けて簡単に触れさせていただきたいというふうに思います。
 5ページ目、5枚目に医療提供体制の各国比較がございます。厚労省の医療基盤整備、あるいは具体的な医療政策、あるいは診療報酬の中に出ているのは、平均在院日数を中心にして医療提供体制を変えようというのが基本的な考え方でございます。

 しかしながら、上の表と下の表では若干数字が違いまして、これは時期が若干ずれているので違うと思うのですが、基本的には同じと考えてよろしいかと思います。上段はある経営セミナーで出た資料で、下段はまた別の経営セミナーで東京医科歯科大学の川渕孝一教授が出された資料です。

 一番下段、一般病床の定義の違いというのが載っております。平均在院日数’98年で日本は31.5日、アメリカは7.1日となっておりますが、そもそも定義の違うものを比較すること自身が間違いなわけです。
 日本の場合は20床以上の医療施設を病院というわけですが、これをアメリカの定義に合わせると、日本の一般病院の平均在院日数は19.8日になるわけです。厚労省の発表しているのは31.5日です。

 そして、人口10万人当たりの一般病床数は2.7になります。アメリカの平均在院日数は7.1日というのは、30日未満の非連邦立病院、新生児の在院日数を除いたものです。そういう基本的な内容が違うものを数字として並べて、これを日本の医療提供体制を変える根拠にしているわけです。これは仮説が違えば結論が違うのと全く同じで、やはり日本の風土、文化、政治、社会、経済を含めて医療提供体制は検討すべきだろうと思います。

 そういう意味で、基本的に間違った前提に立って医療提供体制を検討されている。
 それが予算に反映されているということは非常に問題があるだろう。
 私自身は、現在の日本の医療機関は疲弊している、それは毎年毎年変わる医療政策の中で疲弊しきっているのだろうと思います。そいう点で、厚生省の先ほどの3つの視点ということについては絵にかいた餅ではないか、もっと医療の現実を見て、どう再編するかということを考えていただきたいというふうに思います。

 次のページですが、これは日医が2003年2月に出した病院経営の資料です。
 一般病院は、2001年の10月度と2002年の10月度を比較しますと、経常利益が何と64.5%も下がっております。
 療養型は51%プラスです。精神病院はマイナスです。その下段の規模別の計上利益を見ますと500床以上は利益が上がっておりますが、100床はマイナス、200床から499床もマイナスです。
 これだけの経営の実態であります。

 次のページですが、これも日医の資料ですが、給与費を比較しております。法人、個人、それから院内処方、院外処方です、それぞれ違うんですが、いずれにしましても利益率はすべて下がっております。

 官民格差の問題について、非常に露骨な資料を見つけました。その下段の官民経営比較表これはちょっと古いんですが、95年度です。船橋市立医療センターと千葉徳洲会病院です。
 なかなか公的病院の財政の資料というのは明らかにならなかったんですが、これはある雑誌に載っておりました。

 船橋市立医療センターの医業外収益の中で、助成金が出ていますが、市の一般会計と県補助金が何と27億1747万円出ているんですね、この二つを足しますと。その上段に、医業利益がマイナスで18億5213万円。
 右側の千葉徳洲会病院を見ますと、医療利益は3億600万上がっております。医業外収益も合わせてみますと、船橋市立医療センターは何と27億の助成金を得て、5729万円の計上利益。千葉徳洲会病院1億6400万円、これがいわゆる一般の公的病院と民間病院の差なんですね。
 このこと自身は余り政治の場でも議論されていないと思うんですが、全国的な調査をすれば、膨大な赤字が公的病院に出ている、しかも、それが税金を相当投入されているということがわかると思います。
 次のページですが、これは日本病院会の医療経済・税制委員会の資料ですが、公的病院と私的病院を比較しております。

 これは、12年度、11年度、10年度、9年度の決算、ここでは10床から199床の部分を挙げました。
 それは、地域医療の第一線の医療機関は大体このぐらいの規模が非常に多いということですね。
 しかも、地域医療をやっているというのは民間病院がほとんどです。
 これをみますと、明らかに従業員一人当たりの年間給与費は、12年度決算で見ますと、何と180万も年俸が違います。従業員一人当たりの年間医業収益は、あるいは医師一人あたりの年間医業収益は、民間の方が高いわけですね。

 そして、下段を見てほしいんですが、これはちょっと古いんですが、平成12年度の病院経営分析報告ですが、公的病院の赤字の比率ですね。真ん中の赤字の全体の比率は190病院で71.96%、右の私的病院の赤字は34病院28.8%です。
 膨大な助成金、一般会計からの繰り入れの中で、公的病院は大赤字を出しているということですね。

 そういう中で、医療安全対策をしっかりせいと言われているんですが、医療安全対策というのはお金がかかります。
 経営基盤がきっちり保障されない限りは、医療安全対策も十分できないということは現実だろうと思います。
 そういう中で、一つ消費税の問題を、ちょっと急に指名されたので準備が悪くて申し訳ないんですが、消費税の資料をつけ忘れました。お手元にはありませんけれども、やはり日本病院会の医療経済・税制委員会の平成13年度調査、13年度決算をもとにした調査によりますと、大体一病院あたりの消費税の実質負担額は、平均7482万です。これはお手元の資料にございません。これだけの損税が発生しているんですね。
 厚労省は、診療報酬に消費税分を上積みしたと言っておりますけれども、これだけの実質的な損税が発生している。
そうなりますと、経営基盤をしっかりさせようとしても、これから消費税が、年1%ずつ上げろとかいう話がありますが、全国の病院は総つぶれになります。このことを是非とも知っていただきたいなと思います。

 日本病院会の医療経済・税制委員会を中心に、四病院団体協議会も含めて、いろいろな形で陳情しているようですが、なかなか政治家の 皆さん方の反応も悪いということですが、是非この問題を深刻に受け止めて考えないと、それこそ医療基盤の整備というのは口先だけで、現実的には崩壊するだろうというふうに思います。
 官民格差のことを先ほど申し上げましたが、助成金についても船橋市立医療センターと千葉徳洲会の比較も申し上げましたけれども、診療報酬体系についても非常に問題があるだろう。
 日本の医療というのは、質と予防ということをこれまでないがしろにしてきたわけです。とにかく薬をたくさん使う、検査をたくさんするということで医療経営が成り立っておったわけです。

 やっと最近になって質が問題になってきているわけですが、先年の4月の診療報酬改定で、人工骨頭、大腿骨頸部骨折の手術なんかするときに、50例以上じゃないと点数をあげない。50例を切れば25%カットするということで、これは大変なひんしゅくをかって修正されたんですが、問題は、人工骨頭、人工関節の手術をするというのは、感染して再発させないということが非常に大事なわけですね。ところが、無菌室の手術室を持っている病院と、全然そういうのがない病院で点数が同じなんです。感染しない手術の質を評価してない。これは具体的一例ですが、そういう診療報酬の中で、質が全く評価されていない。そして、質を向上させるということを言っても、やはり絵にかいた餅でしかないだろうというふうに考える次第です。

 最後に、介護保険のことについて述べたいと思いますが、一番最後のページです。介護老人福祉施設、老人保健施設、療養型医療施設の三つについての2007年度の目標値として見ますと、新参酌標準がでていませんけれども、これに沿っていきますと、全国的に特養を増やすということになっています。
 下の段に書いていますけれども、平成15年度予算の中で特別養護老人ホームを14500人も増やす。数字を落としていますが、老健はこの半分くらいですか。ところが、この助成金を見ますと、特養の場合には2億7500万です。財政が逼迫しているにもかかわらず、助成金を特養と老健でこんなに差をつくっているということはどうしても承服しがたいわけです。それで、介護保険の中で、今回、4月から介護報酬が上がるんです。
 その中で在宅重視ということを主張しておりますが、あれは裏目に出るだろうと思います。

 というのは、在宅の点数を上げれば、自己負担は増えるんですね。それで、施設の入所料下げれば安くなる。
 そうすると、ますます入所した方が楽なんですね。だから、在宅が増えるという見通しは、あの政策では絶対あり得ないだろうと。
 そういう意味で、厚労省の掲げた理念と具体的な施策は全く裏腹の関係にあるだろうと思います。
 これは、数十年間、官を重視した医療政策がこういう結果をもたらしたのだろうと思います。
 医療・保険・福祉・教育等々は、社会的共通資本としてどうするのかということを、その経済基盤をしっかり支えるという観点で予算を考えていただきたいなというふうに思います。

以上です。