文六の主張 (論文・発言)
松本文六は医療問題を中心に、さまざまな場で発言し、論文を発表しています。その中のいくつかを紹介します

2002年3月1日
株式会社の医業経営参入問題に想う

 昨年より、医療制度改革をめぐって、日本の経済界をあげての論議が盛んである。その中心は、医療界に対する不満・不信のストレートな表現である。象徴的なのは、営利企業の医療経営参入の規制緩和を求める主張である。

 11月29日の社会保障審議会で、総合規制改革会議委員の八代尚宏氏(日本経済研究センター理事長)は、《株式会社を含む多様な経営主体間での競争を通じて、問題ある医療機関が淘汰される仕組みを模索すべきである》と主張したという。八代氏の発言の前段は医療界に直接関与してないが故の短絡的な発言ではあるが、後段については私は同感である。

 私たちは、これらの経済界の発言を真摯に受け止め、私たち医療関係者の方から医療界の再編あるいは医療制度の抜本改革について積極的なそして具体的な提案をすべきである。

 しかしながら、株式会社の医業経営参入問題に対し、日医および病院諸団体は、《医療は非営利であるべきであって、論外である。》というタテマエ論でしか対応できていない。これでは"小泉改革"に一方的に押し潰されてしまい。結果としては敗北し、アメリカ医療の二の舞に陥るのは眼に見えている。

 へつぎ病院小児科は1989年よりX大学医局より医師を派遣してもらっていた。当初派遣医師は1名で、'99年より2名となり、'01年8月より3名になることとなっていた。ところが、7月初め、〈医局長より3人目の派遣は中止します。又、P君は9月に、Q君は来春に引き揚げます。〉という“通告”を受けた。寝耳に水である。早速新教授の下へ、〈せめて1年間の猶予をいただけませんか〉と申し入れたが、〈民間病院からは引き揚げます。私どもは公的病院にしか派遣しないことにしました。〉と取りつく島がない。

 あちこちに手を尽くしているが、未だこの4月からの小児科医確保の見通しは全く立っていない。この中で、大学医局の考えていることは、国の《病院は2003年8月末までに急性期病院か長期療養型病院かのいずれかを選択しなければならない》という“基本方針”と極めて密接に関係していることが判った。すなわち、大学は200床以上の急性期病院にしか医師を派遣しないとうことである。

 日本の殆どの官公立病院は大・中都市に集中し、地方や田舎の病院は200床以下が多い。事態は眼に見えている。このようなことが全国の医学部・医科大学で実行されれば、地域医療は崩壊に瀕してしまう。

 株式会社が医業経営に参入すれば、当然ながら《利潤追求動機に基づく市場原理を適用する》ことにより、大都市にセンター的急性期病院を集中させることとなる。すなわち、まず、“顧客”の多い大都市から手をつけることになるであろう。それに医師養成機関である大学医学部・医科大学の医局の医局が乗っかって行く構造は、《いつでもどこでもより良い医療を!》という国民皆保険の精神を崩壊させてしまう。

 地域医療と国民皆保険の二つの崩壊は、日本国民の生存権を保障する憲法第11及び23条をも同時に放棄することにも通じる。 

 最も危惧されることは、《所得の多寡、居住地域、職業によって受けられる医療に格差を作る》ことである。本年4月からの三方一両損の診療報酬“改訂”はそれを諸に表現している。

 “小泉改革”は《米100俵》論議には極めて程遠い、医療制度の抜本改革どころか小手先改革でしかないと思う。医療保障制度は国民にとって最も日常的・身近かな政治問題であるが故に、野党及び日医、各種病院団体は、医療制度抜本改革へ向けての具体的提案を国民に提示し信を問うべきである。

 私は、国際的経済学者である宇沢弘文氏の言われる医療は社会的共通資本であるという視座から、以下の提案をしたい。このような方策でしか、日本の医療改革はできないし、国民の期待する質の高い医療提供体制はできないと考える。


《私の医療制度の抜本改革案》

(1)医療機関は社会的共通資本であることを出発点とする
(2)官民の役割分担を明確にする
(3)官公立病院の経理を公開し、助成金を別枠とした財務諸表を公開し、経営実態を明らかにする(官民格差の是正)
(4)医師の都市集中・偏在を是正するため、医師の適正配置基準案を作成する
(5)さしあたり、2年間の卒後研修は、大学病院以外の第一線地域医療機関で行わせ、単独診療を禁止する
(6)医師養成機関の入学資格を4年制大学卒とする
(7)医科系臨床教室の講師以上の地位を欲する者あるいは100床以上の病院の院長に就任したい者は、30代前半に第3世界や無医地区での実地診療に2年以上携わることを義務化する
(8)病院を営利と非営利法人に分け、現在の特定医療法人を社会福祉法人や民法上の財団法人と同じ扱いとすること