文六の主張 (論文・発言)
松本文六は医療問題を中心に、さまざまな場で発言し、論文を発表しています。その中のいくつかを紹介します

2002年8月1日
“小泉改革の正体” ~それは皆保険制度の解体~

 6月14日、10月からの本人負担3割を含む健康保険法の“改正”が強行採決された。

 小泉首相の社会保障に関する視座は、経済財政諮問会議、総合規制改革会議及び産業構造審議会新成長政策 部会の意見答申に立脚したもので、とりわけ前二者の影響が大きいと言われている。因みに、それは、株式会社の医業参入問題とこの4月からの診療報酬改訂の中に鮮明に示されている。

 この両者に共通している思想は、
(1)大都市・大病院中心の医療提供体制へ移行する。
(2)貧しきものは医療を受けるべきでない。という思想である。

 今回の診療報酬改訂にはこの二つの思想が具体化されている。外科系領域では手術例数と医師の数により、基準症例数に達しない場合には30%減算される。人工関節置換術の場合、整形外科を標榜する5年以上の経験医師が3名以上勤務し、年間50例以上の手術実績数がないと、手術手技料が30%減算されるという。大学からの医師派遣が確実に可能な大都市の大病院では100%算定は可能である。大都市は人口が多く、対象患者も相対的に多い。従って、経験のある2人の医師がそれぞれ25例づつすれば50例を越すことは容易である。しかし、地方の病院で、熟練した整形外科医が独りで年間30例の人工関節置換術をしたとしても手術手技料は70%しか支給されないこととなる。

 小児医療の領域でも同じような施策が認められる。小児科医の数が1~2人、3~4人、5人以上で1日2100、2600、3000点と大幅な格差を設けられている。当へつぎ病院では、昨年の10月までは小児科三人体制であったが、《民間病院には医師を派遣しない》という新教授の一言で急拠一人体制となってしまった。三人体制と一人体制では忙しさも極端に違い、小児科医師は夜間もオンコールに応じざるを得ず、睡眠は著しく削られ疲労困憊の状態に陥っている。小児の急病・救急は、時間を選ばない領域であるために一人体制の病院では医師への負荷は極めて大きい。五人以上の体制であれば、お互い休息をそれなりにとれて、相互の意見交換が常にできる。従って、安全対策面でも医師の安心感の度合いは一人体制に比し数倍勝る。このことは、常勤医一人体制の病院の小児科は閉鎖しなさいと通告していることに等しい。

 いずれにせよ、今回の診療報酬改訂の基本的視座は、大都市・大病院(多くは公的病院)重視、地方および中小病院軽視の思想である。アメリカの医療の質・レベルには学ぶべきことも多いが、陰の部分は決して学ぶべきではない。日本においては、むしろこの陰の部分をどうするかの視点で再構築されるべきなのに、厚生労働省の官僚は陰の部分の拡大に手を貸している。としか私には思えない。

 疾病は、貧困の中で多発し、衛生・公衆衛生環境の改善によって感染症をはじめとする急性病は減少し、成熟社会とともに慢性病が多発する。公共交通機関が発達し、病院と診療所の機能分化がはっきりしている大都市における公的大病院では、今回の診療報酬は是とするかもしれない。すなわち、大学医局と直結した大都市の大病院(多くは公的病院)は医師確保が容易なのであるから。しかし、大都市の民間中小病院及び地方の地域に密着した医療を真摯に展開している医療機関であればある程怒り天に達する想いであろう。前述の新任教授の言にみられるように医師の確保がままならないのであるから。小泉首相の本音は、官尊民卑の思想であり、医療の実態に逆行する大都市・公的大病院中心の医療"構造改革"をこそ本旨にしているのであろう。

 それは、《いつでもどこでも誰でもより良い医療》を目的とした国民皆保険制度を解体する思想である。経済的効率性のみを重視した小泉医療政策は、医療安全対策がなされないまま人を物とみなした医療の大展開を産み出し、質と予防を旨とすべき医療を早晩破綻させるであろう。その時、かかり易さを保証していないので総医療費は逆に却って拡大するであろう。因みに冒頭の三つの首相の諮問機関の委員の中には、医学・医療関係者は一人も含まれていない!!

 この6月20、21日の第25回日本病院学会が、虎ノ門病院の秋山洋院長を学会長として東京において開催される。

 そのメインテーマは《医療改革は現場からの提言で》である。

 医療は社会のセイフティネットであり、社会的共通資本である。従って、最も国民に近い立場で展開される保健・医療・福祉領域においては、現場の矛盾の分析を通して、次の医療政策が決定されるべきである。このことの自覚がない小泉政権と利権政治家は追放されてしかるべきである。そのための方策を練り実現させることも又、日本病院会傘下の医療機関の役割でもある。